そこで私たちは、時計構造の中で、
どのように見せればあの動きを表現できるのか
考え続けました。
その答えを探るうちに、一つの発想にたどり着きます。

作中の懐中時計では、針が文字盤の中心ではなく、
ケースの外側を円を描くように回転します。
しかし現実の時計は、ムーブメントの中心軸を基点として
針を動かす仕組み。この構造上、あの独特な動きを
そのまま再現することは不可能でした。

ケースの上を走る針

文字盤上にケースを作る

ケースの上を針が走る構造はできなくても、視覚的に近い効果なら作れるかもしれない。私たちは、ケースの一部を文字盤上に重ねて再現する方法を選びました。しかし、その試みには2つの課題がありました。 ひとつは、全体の厚みが増して不格好になること。 もうひとつは、立体的なケースの質感を 平面の文字盤でどう表現するか。

この問題を解決するため、専用金型を新たに設計し、 ケース幅を限界まで薄く調整。 さらに凹凸加工を施した上に金属フィルムを 精密に圧着することで、 見る角度によって陰影が変化する立体的な装飾を 生み出しました。

そこで私たちは、針を直接動かすのではなく、針を印刷した
透明ディスクを回転させる方式（ディスクインジケーター）に
着目しました。ムーブメント中心から輪列を介してディスクを
回転させることで、針が外周を巡っているように見せる
視覚効果を生み出す仕組みです。

次に立ちはだかったのは、「円を描く針の動き」という課題でした。
一般的なクォーツムーブメントは中心軸を基点とする構造のため、
針が独立して外周を回る動きは実現できません。

円を描く針の駆動構造

日本製ムーブメント

日本が誇るシチズングループのMIYOTA社が製造するムーブメントの中から、独立したディスクを駆動できる トルクを備えたモデルを採用しました。 これにより、作中の懐中時計が持つ“円を描く針の動き”を、現実の時計技術で再現することが可能になりました。

※クォーツ式のため、作中のような滑らかな動きではなく、“チクタク”とリズムを刻むステップ運針による表示となります。